オンライン小説『リバウンド』rebound-011 健康的な二日酔い

聞きなれない電子音が鳴った。ちょっとしたプールのようなベットに倒れていた。生まれて初めてと言っていいぐらい深く眠ったのかもしれないが気絶していたという方があっていた。パープルのシーツ、天使なのか悪魔なのかわからない天井と壁のデザインが見えた。頭の中で電子音がぐわんぐわんと鳴っている。ここがどこなのかを理解するのにたっぷり1分程かかった。ベットの横にある真っ赤な受話器をとった。
「生きてるか?」
ドクターがざらざらとした声で言った。
「20分風呂に入ってコーヒーを飲んだら私のオフィスへ来い、サンキュー」
ざらざら声がツー音に変わった。二日酔いの奥にとてつもないうねりのような気配を感じた。ぼくは両手をまじまじと見て顔を静かに触った。ごわごわして今にもむけてきそうなヒフだったが、新しいヒフらしきものがへばりついていた。胃の中が熱くなる感じがする。頭を揺らさないようにそーっとベットから起き上がる。
窓辺に立つと、階下にはレトロな色の路面カーが見えた。向かいのビルの前で止まろうとしていた。タイル状の地面が朝の太陽を反射していてまぶしい。ビジネススーツの何人かと、うすい水色、パープル、カーキなどのアース系ウインドブレーカーを着た観光客らしき女性グループが降りてきた。高くて青い空とそれらの色はモダンアートのように調和がとれていて美しかった。ビジネスマンのカバンには昨晩仕上げた見積書と契約書が入っているのだろうか。女性らのウインドブレーカーの下には、下着が擦れて赤くなったヒフとか、くつづれに貼ったバンドエイドとかがあるのか。何千キロも離れている場所にも生きている人がいると知るとなんだかほっとした。

浴槽に入ってシャワーの詮をひねった。ぼくはそのままバスタブに座り湯にあたった。お湯がヒフにあたり身体をつたって流れていく。ちぐはぐな違和感に戸惑う。おどろくべきことに気持ちいいのだ。数分たつと身体のあちこちのヒフが湯にむけだした。それは人間の様子とは思えなかった。蛇の脱皮。セミの抜け殻。軍服を脱いだやせこけた兵士。剥け落ちたヒフがバスタブの排水口に詰まりだした。オレンジ色のシャンプーで髪を洗ってみる。髪の毛は長い間あちこちからみついていてナチュラルなドレッドヘアになっていた。頭皮が痛くない。たぶんぼくよりぼくの心がひどくびっくりしていた。お湯の中でうわわわわわわわと声をだしそうになる。あの痛みはどこへいった?ひょっとしてここは天国なのか?ぼくは狂って幻想を見ているのか?だいたいなんでぼくはこんなガクダイの部屋の半分以上もあるバスルームで朝から風呂に入ってるんだ?昨日はなにをしたんだっけ?ぼくはなんだかわからない気分でバスタブで足をのばした。死なないのか?

2020.8.29

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