オンライン小説『リバウンド』rebound-016 クラブハウスサンドイッチ

「自殺者に共通していることがあるんだ」ユウジンは声のトーンをひとつ下げた。
「なに?」
『ワイプ』
「病気を苦にして?」
ユンジンは頭をかいた。「ところが話しはそう単純じゃないんだ」
リタはコーヒーカップを持ったまま待った。手持ち無沙汰そうなスタイルの良いウエイトレスがあの女だれ?とこちらをチラチラ気にしている。ほっとけよ。
「『ワイプ』はただの湿疹と言われてるし。薬もある」
「それじゃ死ぬことないんじゃないの?」
ユウジンはコーヒーにクリームを入れて白い陶器のスプーンでかき回した。リタはファックスを見た時に湧き出てきた気泡がプチプチとはじけるような感じがした。とりはだがたった。かばんから無意識にノートとボールペンを取り出した。ユウジンはあきらめたようにため息をついてコーヒーを一口飲んだ。
「だめっていっても記事にするんだろ?ネタ元は守ってくれるよな?」
ユウジンはコーヒーカップを置いて、頭をかいた。
「『ワイプ』は昭和からあった。子どものころ発症することがほとんどで、大人になるにつれ自然になおるものだったらしい」
さっきのウエイトレスがクラブハウスサンドイッチがのった大きい白い皿を2つ持ってきて決まり文句を言った。クラブサンドイッチになりますう。ユウジンは彼女にありがとうと言って笑顔を向けた。育ちがいい男がやる自然なしぐさだが女子には効果がある。リタはボールペンをかちゃかちゃした。はやくしてよ。
「当時の親たちはその地方独特の風習などで知らず知らずのうちに対処してたんだ。おばあちゃんの知恵みたいなもんだよね。季節毎のお風呂の習慣、しょうぶ、柑橘類、お茶やなんかだね。それらはある種の殺菌や鎮静のような役割を担ってたんだな」
ユウジンは遠くを見る目をして窓の外をみた。平日デートのカップルがクルマを止めた。女子はやわらかそうな白いセーターを着ていた。
「で?」
「あ、それが60年代後半になると、そういった風習よりも医者に行ってすぐに効く薬をもらうという対処が一般的になった。忙しい社会に突入したんだな」
ユウジンは会社名の入った大きな茶封筒から、プリントアウト、文献のコピー、新聞のスクラップなどをがさがさとリタの前に広げた。
「とりあえず食べていいか?」
ユウジンは付け合せのポテトにケチャップをつけた。私もクラブハウスサンドイッチは大好きだ。ただ、粒マスタードやケチャップを付けながらはさんであるマヨネーズやスモークされたチキンやトマトをこぼさないように食べるには細心かつ優雅な注意が必要でいつも最終的には戦いになってしまう。
「どう?」ユウジンが言った。口の横にケチャップ。
「経済成長を支えた薬?」
「そうだ、おれたちの一世代上の話しだ」
「エス市とどんな関係が?」
ユウジンはスマホのディスプレイを見てメールを何通か確認するとポケットにしまった。
「さて、クラブハウス好きだったろ?食べなよ。続きを話すよ」
と言うとグラスから水をぐいっと飲んでおしぼりで口元を拭いた。
リタは三角形の端をかじった。おいしい!好きなタイプのパンとマヨネーズだ。膝元にハンカチを引いてさあたたかいねと優雅にコーヒーを飲んだ。

2020.9.8

 

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