オンライン小説『リバウンド』rebound-019  絶望するには十分すぎる。

ユウジンは熱燗をビールに変えてますます絶好調。
名物の川魚を焼いたのといのししの煮込みを食べた。いまでは、店内は常連のお客たちで込み合いうるさく、おかげで気兼ねなく話すことができた。“御触書”はすみずみにいきわたっているとユウジンは言った。患者らは希望にふたをされ仕事を失い家族に腫れ物のようにあつかわれ孤立していた。こんなことが、いまの日本にあっていいのだろうか?と懐かしい青い気分を味わった。だいぶ酔っ払っていたがだいぶ胸が痛んだ。
ユウジンの取材によれば患者らはコミニケーションを枯渇していた。顔を知られず所在や名前を明かさずに接点をもつことのできるネットはぴったりとはまった。自身のリバウンドの経過を刻銘につづるブログ、自殺を予告し自殺までの手記を競うように書きなぐるブログ、自分を何年も『セラ』漬けにした医師を糾弾し抗議自殺を予告するブログ、監督官庁に陳述文書を共同で送ることを公開したブログ、ただただ発狂したブログなどが雨後の竹の子のように出現し育っていた。
「誰かに知ってほしいと思うのは無理もないことだろ」
グラスのビールを干してユウジンが言った。
「存在そのものを否定されるというのは苦しいものだわ」
ユウジンはうなずいた。その上にさらに彼らを追い詰めるめんどくさいことあるんだと言った。
「あー、無記名の落書きは互いに傷つけあって、すぐに炎上するからそれを見逃さないやからがおおぜいいるだろ?」
ユウジンがかぶりを振って空のグラスを見たので、ビールを注いであげた。ユウジンが見たことのない目を向けて話し続けたのでどきりとした。ネットワーク上の無数のサーバーにはマグマのように熱くこぷこぷと怒りが煮えていた。膨大なアクセスはやからにとってはおいしい市場となる。リバウンドをのりきるノウハウと称するありとあらゆる合法非合法の民間療法的商品サイトが出現した。無料サンプル、効果が出たという体験談などがそれらのサイトに踊った。わらをもつかむ患者はそれらに給与や貯金を投じさらに経済的に追い込まれていた。患者はリバウンドとともに家庭と経済が破滅し複雑に孤立し深く心理的なダメージを受け、そしてさらにネットに傾倒していた。
「絶望するには十分過ぎる」
「私ならどうするかしら」
「おれなら間違いなく死ぬ」
お金で解決するものの延長に『セラ』は出現しあっというまに浸透した。頭痛にアスピリン、新規営業の電話マニュアル、デート、接待につかえるお店マニュアル、会社経費のタクシーチケット、会社経費の風俗店、高級スーツはクレジットカード、長期の高級住宅ローン。
「私の仕事はその一端を担っていたわ」リタは言った。
「ああおれもそうだ」
2人はビールで小さく乾杯した。苦かった。

2020.9.15

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