オンライン小説『リバウンド』rebound-038   レナ。

「その腕どうしたのよ?」
レナはシャワーをあびて、Tシャツ姿でポカリスエットを飲んでいるところで母親と遭遇した。なんで今日家にいるの?
「なんでもない」
「ちょっと見せなさい」
「なんでもないってば!」
レナはペットボトルのキャップを閉めながら階段を上って部屋のドアを閉めた。母親が何か言っているが聞こえないふりをした。親に知られたくなかった。どうせうるさいこというだけだ。中学の頃からリビングの引き出しから保険証を持って2つ先の駅の病院にひとりで行っている。病院でもらう軟膏は良く効いて友達にも知られていない。高校に入ってから軟膏が効かなくなったかも。ネットには『ワイプ』のサイトが多くある。元看護師の告白や発症して絶望している弁護士の男のブログをよく読んだ。職業を書いていたから信用できるような気がした。
今では毎日いらいらして眠れずお腹に言いようのない不安がずっと張り付いている。もやもやした神経からわずかな集中力を搾り出して目の前のことをやっつけ、その他の事はあまり考えないようにしている。家ではヘッドホンをはずさない。湧いてくる感情に気を許すと何かに押しつぶされそうになるし、大声を上げて何かを壊したくなる。
「ちゃんと勉強しているの?」
「ちゃんと勉強しないとお父さんの大学に入れないわよ?」
「わかってるわね?」階下から母親の声が聞こえる。レナは濡れた髪のままヘッドフォンをしてi-PodのディスプレイでWelcome To The Jungleを鳴らしたけど、母親の声がやまない。無関心なくせに思い通りにしようとする。あなたのためなのよあなたのためなのよあなたのためなのよあなたは勉強してお父さんの大学に入るのよ。
母親は祖父の会社の専務で、祖父が体調を崩してからは朝から晩まで出かけていることが多くなった。ばばあのくせにわざとらしくキャピキャピしてて口元と胸元に色気がありいつも自信たっぷり。小学生の低学年の頃までは自慢だったけど、今は触られるのも嫌。顔をあわせる度に勉強してる?ってうるさい。私のことなんにもしらないくせに。ボリュームを上げても母親の声は消えない。母親の声を爆音で追いやってなんとか気絶する。

2020.10.24

 

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