オンライン小説『リバウンド』rebound-047     座敷でカワムラの携帯が鳴った。

座敷でカワムラの携帯が鳴った。失礼。
「あーちょっと待ってくれすぐに折り返す」カワムラは通話口を押さえて言うと携帯を切った。上座で挨拶の真っ最中であった。
「えー、みなさまのおかげをもちまして、無事滞りなくカンファレンスを終えることができました。また、「セラⅣ」の臨床認可もまもなく・・・」
カワムラの携帯が再びピリリリと鳴った。カワムラはディスプレイを見て眉をひそめた。それを広告代理店のスズキは見逃さない。
「カワムラ先生は次ぎの講演の準備に追われておりまして、硬い挨拶はあとにしまして、少し早めの忘年会を兼ねましてみなさま方におかれましては」スズキがやおらふすまを開けると、次の間に控えていた綺麗どころが艶やかな着物姿でそそと入ってきた。宴席からはおおっと掛け声があがった。スズキは綺麗どころの姉さんにお酌する順序などを綿密に指示をしていたので、さくさくと杯がはじまりあっという間に宴会になった。

カワムラは廊下で携帯にでた。めずらしく小男があわてている。悲鳴に近い声で状況を説明しようとしているが、取り乱していてわからない。パジャマのまま水浸し?すぐにうちの病院へ運ぶよう指示した。
「あ、いや救急車は近所の手前まずい、あんたらのクルマで運んでくれないか」
「毛布で体をくるんでバックシートに寝かせてくれ」
「病院には電話しておく、裏口にクルマをつけてくれ、私もすぐに行く」
カワムラは気道を確保するのと、頭を保護するのを付け加えると携帯を切った。宴席のスズキを手招きして、緊急の患者だみなにそう伝えておいてくれ、後はよろしく頼む。
「ご安心ください心得ております。食事が終わりましたら例の店にご案内する予定です」スズキは小声で言った。クライアントに忠義なやつだ。カワムラは玄関でコートを受け取ると表通りまで駆けた。忘年会シーズンで人が多く、タクシー乗り場まで何人もの男や女にぶつかった。おれは急いでいるんだどいてくれよ。なんだって横一列で歩いているんだサラリーマンは。どいてくれ。7丁目の路地でタクシーに乗り込むと急いでくれと言った。
いや~お客さん困りますよこの時期警察が多いんですよ。いいから飛ばしてくれ金なら払う。ネオンに顔をほころばせて歩く人々を殴り倒したくなった。
「顔がない?」
今では嫌な予感が底知れぬ程広がっていた。

2020.11.25

 

 

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