オンライン小説『リバウンド』rebound-050  レナ拘束具。

レナは意識がもどるたびに、セラヲツカワナイデセラヲツカワナイデセラヲツカワナイデと泣きわめいた。
ヒフからは浸出液がとめどなくじゅくじゅくと流れてシーツに血の染みをつくった。顔、首、体、腹部、陰部、腕、足のほぼ全身を包帯で覆い、頻繁に取り替える処置が続いた。包帯は浸出液を吸い込む。体温で乾いた部分はかさぶたとなってべったりとヒフに張りつく。看護師は処置の度に消毒薬を拭きつけながら、はさみやナイフを使って慎重に包帯を剥ぎとらなければならなかった。レナが激痛で声をあげ体をよじると、かさぶたごと包帯を剥ぎとることになってしまう。その度に大量に出血した。そのため担当医はレナをベットに拘束ベルトで固定した。ブラジャーもパンツもつけていない体がむき出しにされている。そこにはティーンの女性の骨格はあるが、ヒフは1枚もなくじゅくじゅくと感染した体液だけがかろうじて付着している。

翌朝までの処置で4ダースの包帯とガーゼが空になった。カワムラは入院病棟への長い廊下を急いだ。他の医者にひっかきまわされる前にレナを見たい。
「きのうの急患はたいへんでしたね」
廊下で担当医アマミコに会った。40前ぐらいだろうか化粧っけがまるでないが、唇が厚く色気がある。美人精神科医として患者に人気があるらしいが冷たい目をしている。
「ああ・・・どうも」
「それにしてもひどいありさまですね」
「・・・そうだな」
「医者の言うことを聞いていればいいのに何を考えてるんですかね最近の若い娘は」
「・・・ああ」
「彼女もこれで懲りるんじゃないですか」アマミコは微笑した。
「・・・ああアマミコ先生、症状の方はどうなんですかね?その・・・だいぶあばれておったようですが」
「ええ自分を傷つける可能性があります。お薬を飲んでくれないので定期的に筋肉注射をする必要がありますね」
カワムラはうなずいた。
「それより先生、私はあんなヒフ症状を見たことがないのですが、あれも『ワイプ』なのでしょうか?」アマミコが言った。
「ああ、うん、まだわからないのだがね、非常に珍しいケースだろうね」
今度はアマミコがうなずいた。
「皮膚科の方で『セラⅣ』の点滴を準備しているのだがね」
「いよいよ新薬の臨床ですね。きっと良いデータになりますね」
アマミコは会釈してナースセンターへ向かって行った。カワムラは病室に入った。ベットには白い包帯のかたまりが拘束具で固定されていた。看護師が床に散らばっている包帯やガーゼの残骸を片付けている。
ヨイデータニナル?誰か昨晩のことはうそだと言ってくれ。看護師がもうほんとにたいへんですセンセイと言った。カワムラは返事もできず、娘を触ることさえできなかった。

2020.12.8

 

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