オンライン小説『リバウンド』rebound-054    強烈な怒りに満ちている。

目をあけると母親がいた。派手なブラウスを着てせわしなく動いている。
左腕に点滴がつながっていた。ビニールの容器の中にしずくがたれているのが見える。頭がぼーっとしている。頭の中に古綿をぎゅうぎゅうに詰め込まれた気分だ。サイドテーブルに大きな花束が載っている。だから早く医者に行くように言ってたんですよぉ、ほんとうにねえ、ご迷惑ばかりかけますがぁと医者と看護師さんに繰り返し言っている。あなたの好きな駅前のメロンパンここに置くわね。着替えはここに置いたからね。じゃ仕事があるからまたねと言った。気持ちに隙間がない。わたしには触れない。目を閉じた。ちょっとかわっている娘ですがどうかよろしくおねがいしますぅと言う母親の声が聞こえた。腹が立ったが、もうどうでもいいやと点滴の気配にまどろんだ。

父親が個室に移した。薄いオレンジの壁が清潔な感じがした。窓にはベージュののブラインドがおろされていた。バスルームがついていた。トイレの金具は取り付けが頑丈そうですべての角が丸く作られている。鏡はない。涙が流れる。涙とは枯れないもの?恥ずかしそうな態度の母親に会いたくない。だれもお見舞いなんかに来なくていい。ドアの内側に鍵を付けてくれって頼んだけどだめだった。クリスマスもお正月もここにいることになるんだ。破裂しそうな感じがして叫びたい時はi―podのボリュウムをあげて、それが感情なのか音なのか自分なのか誰なのか怒りたいのか悲しいのか苦しいのか痛いのかをわからなくする。i―podとヘッドホンだけが信じられる。バッテリーが切れた。頭に隙間があく。おもしで蓋をしていて封じ込めていた何かが目をさます。濃い緑色で黒いうろこがあり赤い目をしている。今ではごごごごぅと地響きをたて赤いしぶきを垂らしながら目の奥の神経を駆け上ってきた。強烈な怒りに満ちている。何であたしがこんな目にあっているの?なんであたしだけ?なんであたしだけ?なんであたしだけ?なんであたしだけ?マッシュルームカットは毒素を抜くまでたいへんだと言った。あたしは何か悪い事をしたの?なんであたしだけなの?レナはかろうじて歯を食いしばりうああああぅぅと絶叫を押さえた。ヘッドホンのコードを千切りたい、ふとんをむしりたいが指は包帯でしばられている。ベッドを降りようとしたら足に力が入らず転んだ。その拍子にそいつは暴れだした。静めなきゃいけないあたしは気が狂ってなんかいないあたしは気が狂ってなんかいない狂ってなんかいない静めなきゃいけないと左の人差し指を包帯の上から思いっきり噛んだ。うごめく黒いうろこは止まらず赤いしぶきが床に飛び散った。こんなところを見られたらまたベルトで縛り付けられる。静めなきゃ静めなきゃと息をはっはっはっはっと小刻みに吐いて助走をつけて大きな窓ガラスに飛び込んだ。

2020.12.21

 

 

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