オンライン小説『リバウンド』rebound-063    芽が突き破る。

「ええまだですわ」小男が携帯に言った。
大男はおもしろくないといった顔でぼくをにらみ、サイレンサーでぼくのあごを小突いた。拳銃はテレビや映画で見るより小さくそっけないがふるえるには十分な威力があった。本で安全装置のことを読んだ事があるが、いきなり暴発しないのだろうかと歯ががちがちと鳴った。金色の時計の音がカチコチと響く。わかりましたでと言って小男が携帯をたたんだ。ぱちん。
「どうやら今日のところはあんたに分があるらしいでぇ」小男が言った。
ぼくは黙ったまま待った。
「あたしにはようわからんけど、いやいやインターネットってすごいんやね?」
大男は眉をひそめて口をあけたままだ
「あんたを表にださないとまずいんだとさ」小男が言った。
ぼくにはなにが起こっているのかはわからなかったが芽が伸びて何かを突き破ったのかもしれない。誰かが誰かに電話をしたのだ。
「おらっ、チャカしまいな」小男は大男に言った。大男はやっちゃいましょうやあごを突き出した。
「お客さんからの注文なんや。早くしまいな!もたもたしてると、うちらもまずいんやで!」小男が一喝した。
大男は口を尖がらせてしぶしぶとサイレンサーをくるくるとはずし、グリップから弾倉を取り出して金色の玉をバラバラと抜いた。おいおいそんなに入れてたのかよ。大男はそれらを茶色の布にくるんでカバンにしまった。ぼくはそこまでをじっと見て、なんとなく力が抜けて、溜めていた息を吐いた。肩と首がパンパンにはっていた。
地下駐車場を出る時、スロープから野次馬が見えた。中には『セラ』リバウンドの顔がいくつも見えた。うつろな目をしながらそわそわと何かを待っているように見えた。何人かと目があったが、小男の運転はきびきびとしていて、黄色から赤へのきわどい信号を無視して、あっというまに大通りに出た。

流れていく景色を見ていると、人目を気にして過ごした数日間を思い出した。ぶん殴られた。夜行列車、ネットカフェ、ゲン、布団部屋、スカイプ。本物の拳銃。たぶんのる波をひとつでも間違っていればいまここにはいない。
トウキョーはあいかわらずクルマと人が多く、効率的な経済活動が進行しているように見えた。あちこちにクリスマスの飾りがあって賑やかだし、どちらかといえば平和なように見えた。でもたぶん、わりと頻繁に小男、大男の仕事が行われているのではないかと思った。
246と環八の交差点にパトカーがいてどきっとした。大男は気に入らなそうな顔を崩さないでとなりに座っていた。この男は言われれば躊躇せず殴り、引き金を引く。そういう男が隣にすわっている。信号待ちに若い男女やスーツ姿の人々を見た。みなそれぞれに理由や都合があるのだろう。それはすてきなことだ。生きているということはそれだけで何か意味があるのだと思う。小男はそんなことにはおかまいなしにクルマを飛ばした。
たぶんお客さんの都合や依頼が彼の生きる意味なんだろう。

2021.1.13

 

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