オンライン小説『リバウンド』rebound-067    事実を構成する一団。

カワムラは自動販売機を背にして一団に取り囲まれた。数台のビデオカメラが低くブーンとうなっている。右から左にゆっくりと視線を移すと小さな録音機器や携帯端末、極小のPC、デジタルカメラとあらゆる電子機器が見えた。みな口をパクパクしているのはわかるが何を言っているのか判別できない。ここが痛いんです。あそこが痛いんです。気分が悪いんですなんとかしてくれと診察室に詰めかけてくる患者。全然治らないじゃないか。詐欺だ。ヤブ医者。別の薬をよこせという患者。私はおまえたちの召使ではない。人のせいにするな。約束を守れ。指示を守れ。順番を守れ。ルールを守れ。自分の責任を取れ。かしゃかしゃとした電子音と口々の質問攻めは廊下に反響した。病室から顔を出す患者もではじめた。
「ここは入院病棟です。お静かにお願いします」駆け寄ってきたナースが言った。
「取材中なんですよぉ~」
一団の女性が言った。その一言が免罪符のように騒ぎはおさまらない。
「あー、ここは入院病棟です。お知らせした時間どおりに本館の会議室の方で会見を行う予定です。どうかそちらでお願いします」
そう言って頭を下げようとしたカワムラのおでこに、アップを撮ろうとして前に出たカメラの角がごつんとぶつかった。カワムラは顔をしかめて頭を上げるとおでこの右端から血が一筋つーと流れた。一団は一瞬はっと息を飲み沈黙したがその直後、カメラのシャッターがいっせいに切られストロボが何度も閃光した。至近距離からの一斉射撃のようだ。カワムラは大量の光に目を細め右手を顔の前にかざした。それはまるで質問から逃げている姿のようになった。一団はそれを逃さずシャッター音とストロボのいっせい射撃を放った。思わずナースが駆け寄って、
「先生、おけがをされています。こちらへ」と一団から引き離した。そのうしろ姿にまた一斉射撃が繰り返された。
「みなさまここは入院病棟ですのでどうかお静かに、お願いします」
ナースのぴしゃりとした一声で一団の射撃はおわった。
一団はやれやれとたばこに火をつけたり携帯電話で話しをはじめたりした。
「おい、やるなぁ絶妙のタイミングだったなぁ」
ぶつけたカメラマンがヒーローになっている。
「いや~ただ、アップを撮りたかっただけっすよ」
「いい絵が撮れたな」
〝カリスマ医師血の懺悔〟だこりゃ。ひとりがそう言うと、一同がわっとわいて拍手が起こった。自動販売機のサーモスタットがぶーんとうなりだした。

2021.2.3

 

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