オンライン小説『リバウンド』rebound-068    無力化。

夜明け前の深い森の中で芽が伸び続けている。個人の意志は下請けにだされる必要はない。そのものであることがそのものだ。個人の意志のネットワークは誰かの持ち物ではないから、パワーでの売り買いが成立しない。コントロールも利かないし、広告代理店の受注と発注の力を無力化する。

森の幹をなぎ倒して迫ってきた一台の戦車が目の前で止まった。上空を飛びかっていたジェット機がいつの間にか姿を消した。工兵達がタバコに火をつけ始めている。オイルライターのにおいがする。今では夜が明けて、朝つゆにまじって小鳥の鳴き声が聞こえる。勝ったのか負けたのか誰が得をしたのかと考えたがすぐにそれはどうでもいいことだと思えた。戦闘の意味がなくなったのだ。インターネットというバケツリレーは無数のサーバーを介して、個人の端末に繋がっている。芽はたくさんのバケツから水を補給してハブをするすると抜け出て、縦横無尽に伸びている。763人分の個人の意志はつながったもうひとつの現実をつくりあげた。“上手に付き合いましょう”という誰かが現実にしたい事実は唯一の事実ではなくなった。東の空に太陽が昇ってきた。倒れた木の根元に腰をおろした。ぼくはこれまで無防備でむき出しのまま雨風にさらされてきた自分を想った。涙が流れた。そしてそのまま眠った。父親が、どうしておまえは医者の言うことを聞かないんだ、どうしておまえは何にもなれないんだと言った。ぼくはしょうがないじゃないかと言った。はじめてだった。あれこれつっかえながら感情のままに訴えた。ぼくは怒っていた。激しく怒っていた。だんだん自分が子どもで、涙をながしてだだをこねているような感じがしたが、父親は静かに微笑んだ。

2021.2.5

 

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