森の中で夢を見ている。
遠くから間をおいて気の抜けた発砲音が聞こえる。戦闘がおわったのを知らない兵士たちなのだろう。そのたびに森の静寂がきわだつ。ぼくは倒れた幹に寄りかかっている。もうどうでもよくて、ばかばかしい。どこかで男が泣いている。友人の死を悼んでいるようだ。彼の嗚咽がマントラように耳の中に響く。これからも戦闘は続くのだろう。むこうで軍服を着た男がうなだれた兵士の頭に刀をあてている。ぼくは合掌し恐怖を抱きしめる。
父がぼくの名前をがさがさとした声で呼ぶ。
「どうせ死ぬんだよ」
ぼくは息を止めていたことに気づく。息をすう。
もうやめてみるよとはじめて言えた。
2021.3