家族という複数の親密な関係の人々との間で、感情や身体感覚を閉じ込めてしまったことについて話してきた。
ところで、友人たち、学校、会社などでは、あなたにどのようなパターンが起こっていたと気づいているだろう?
クライアントさんから次のような相談を受けることがよくある。
「集団が苦手なんです」
「女子のグループにいるのが嫌!」(女子)
「会社ではいつでも一番困難を引き受けてしまう。気がつくと倒れている」
「あの人(上司、同僚、部下)が私のことを嫌っている! だから、会社には行きたくないのです。」
「家に帰ってくるとぐったりと疲れて寝込んでしまうのです」
「どこにも居場所がない」
「グループにつながりたいけど、入れない」
「誘いを断れない」
「とても仲の良い仲間だと思っていたのに裏切られた気分です」
「同僚にものすごく腹が立っています」
「同性の上司に嫉妬されていて気持ち悪い」
「面倒をみている部下がわたしを攻撃してくるのです」
「大好きなサークルなんですけど、あそこにいるとそわそわして落ち着かない」
「利用者さんを心配しすぎてしまう」
「職場に行くとそわそわ落ち着かない、助けてあげなくてはいけないと思ってしまうのです」
AC:私、ほとんど全部あてはまります。
Co:対人関係には家族という複数のメンバーとの関係性が大きく影響するからね。
AC:えーと、例えば、母との関係だけではなくて?
Co:そうだ。仮に、母との関係が不安定な状態であったとすると、その時に父という人がどのような役割をとっていたのか、兄弟姉妹がどのような役割を担っていたかなど複雑な家族間のシステムがあなたのパターンに影響する。
アーヴィン・D・ヤーロム他(1991 )は、対人関係にともなう仕事や生活やへの支障とは、親や養育者との不適切な対人関係の歪からつくられたものであり、複数の人々の織りなすグループ内での相互作用がセラピーには重要であると言っている。引用 15)
AC:どういう意味ですか?
Co:家族関係で学んでしまった歪んだ複雑な対人関係を修正するようなグループセラピーが有効だと言っている。
AC:ふ〜ん。
Co:だからACを肯定するセッションでは、トラウマ反応に治療的に対処する精神力動的カウンセリングと対人相互作用をあつかうグループワーク(集団心理療法)を併用してとりくむんだ。
AC:グループワーク?
Co:10人ぐらいのグループでセラピーをするやり方だ。グループワークでは、参加者同士の言語・非言語の相互情緒交流を通して、家族内で飲み込んできた身体感覚や感情の自然な動きを安全に修正していく。そうすることで、自己と他者やグループ(家族)との関係性を育て直し、それを関係内(グループ)で分かち合う体験を重ねていくんだ。
AC:関係性を育て直し、自己を育て直す?
Co:そう。グループとの関係性を通して、あなたとあなたとの関係性を育てなおす。
AC:は?
Co:あなたはどんな自分を自分と思っている? もしかして、家族トラウマに翻弄される犠牲者な自分を唯一自分と思ってたでしょ?
AC:はぁ?
Co:私たちは、自分が思っている自分以外の自分を体験した時に癒やしや変化を体験する。それは、他者との関係性や相互作用に気づきを向けることが助けになる。
AC:うーん、他者を通して自分を見なおすってこと?
Co:うん。それで、自分との関係性を見直し変化すると他者との関係性が変わるんだ。
AC:はあ。
Co:まあ、とてもグループワークとはとても体験的なセラピーだからメカニズムを説明するのはなかなか難しいけれど、なかなかの大仕事になるんだ。クライアントさんたちの感想から考えてみよう。
「グループワークには最初すごい抵抗がありました」
「その場にいることにとても緊張しました。自分の隠している部分がバレちゃうんじゃないかと」
「誰かに非難されるんじゃないかと」
「他の方のワークを見ている時に、自分のことを言われているようで怒りを感じました」
「グループワークのメンバーに猛烈に腹が立つこともありました」
「でも、そのうちに、自分がとてもあったかく共感されている感じがして」
「誰かのワークを見ているだけで自然に涙がでてきて」
「いまでは、参加していると自分につながれる感じがして、癒やされていきます」
「自分だけの苦しみだと思っていたことが、あの人にもあることがわかって」
「あの人の体験は私の体験でもあることに気がついて」
「ワークが終わって家に帰ってひとりになると、あの親密な場に触れたくなる」
「最近では、職場で嫌なことがあったりすると、ワークでのみなさんのお顔が浮かんできて、あー、まあいっかと思えるようになってきました」
「あんなにカウンセラーが嫌いだったのに、いまでは、私もカウンセラーになってみようかなと思っています」
「この先もう誰も愛せないと思っていたけど、いまでは大切な人と親密な関係をやり直したい気持ちになっています」
「自分でもおどろいているんですけど、子どもが欲しくなっている自分に気がついています。まったく関心がなかったのに」
「彼への怒りの爆発が少なくなって、対処もできるようになってきました」
「・・・ひとりでは、とうていひとりでは嵐を通り過ぎることはできなかったと思います」
AC:なんだかとても興味深いですね。じ〜んとします。
Co:他者との関係性の中で新しい自己を見つけたり情緒を育むワークは、本を読んて知識を詰め込んでいく脳ではなく、本能的な脳(扁桃体、脳幹、海馬のあたり)を育て直すことだと言える。だから、初期家族関係の影響を修正するような安全な集団内で繰り返し反復的にあつかう時間が必要なんだ。
AC:育て直す時間がかかるんですね?
Co:うん、まるで、新しい言語を学んでいくように。自分の内面の世界を情緒的にグループで分かち合ったり、受容されたりする機会を通して子ども時代に感情に根付いてしまった認知を修正していくんだ。
2022.1