Co:ところで、人間を理解するための手がかりのひとつである先人の知見ーー精神療法、臨床心理学ーーとは、たとえ、人生を2回生きることができたとしても学びきれない程の質量があるし未だ発展途上である。自分を知るための旅において、邁進するあまり必要で十分な限界を受け入れないとその濁流に飲み込まれて、かえって自分を見失い人生が破綻してしまうかもしれない。
AC:底の見えない海、はての見えない宇宙?
Co:うん。自分の専門家になる冒険あるいは自分を知る道とは、限界などないという信念を持っていた過去の自分を手放さなければならない道でもある。
AC:ほー、限界を知る?
Co:でも、ここで補足しておくけど、私はやってもできない!という、あー、一般的な精神論的な限界と言う意味ではないよ。
AC:ふーん?
Co:気づいていると思うけど、限界などない!と言う信念とは、トラウマがあったのにもかかわらず・・・?
AC:生き延びてきた力でもある。
Co:そうだ。限界がある!と思っていたら生きてこれなかった。
AC:ふうむ。
Co:ここから先、自己愛を修復する旅に出ると、その信念は手放さなくてはいけない。
AC:限界がある。と言うこと?
Co:うん、限界を知る、限界を設定する。かな。
AC:もう少し具体的にお願い致します。
Co:例えば、現在の科学の理解によれば、私たちの身体の生物学的な期限とは概ね150年ぐらいと設定されている。病気などがなければだが。その内で生殖活動をしたり仕事をしたりと、あれこれできる時間は100年余りだろうか。仮にその期限を肉体的な「死」と呼んで見ると、「死」があるから、私たちは「生」を受け取ることができると気づく。
AC:ほー。
Co:もし、あなたはいつまでも死なないとしたら?
AC:えー、楽です。
Co:そうかな?どのように楽?
AC:だって、あせってACの悩みを回復しようとする必要もないし(笑)、そうすれば仕事や人間関係もどうでもよくなるし、ぼーっとしていればいいじゃないですか?
Co:うんうん、そうだね。でも、それだと生きてる意味を感じることができるだろうか?
AC:うーん、死なないとしたら、ですよね?ずっとぼーっとしてていいんですよね、うーん、あれっ?、生きている意味がないってこと?
Co:うん。私たちは、「死」を敬うから「生」を享受できるのかもしれない。
AC:ふうむ。
Co:カウンセリングの用語にも「限界設定」という言葉がある。
AC:へー。
Co:心の健康の変化や援助に枠組みや範囲を設定するという意味なんだ。
これは、主にクライアントさんを守るために設定します。が、同時にカウンセラーを守ることにもなります。この両者の限界設定を尊重した関係性が、クライアントさんの実人生において、自分と他者の境界線や人権を守る限界設定感覚につながるように紡いでいきます。
クライアントさんには、自身の安全を守るような設定、例えば、○○○にNOと言ってもいい。期間中必要を感じたら医療に行く。グループなどで安全を感じられない状況では席を外す。自分の安全を優先した選択をする。カウンセリングの日時を守る。などなど
カウンセラー側では、恋人を紹介することはしない、就職先を紹介しない、お金を貸さない(笑)、職責(医療の領域など)の限界を説明する、などなど。
このような限界設定を双方で設定することで、
週に1回カウンセリングで、○○○の症状の解消にとりくむ。あるいは、◯年◯月までに○○○ような自分に成っていたい。という治療的変化を、カウンセラー、クラインアントの共同作業で目指すことができるようになるのです。
AC:なるほど、。双方で、できること、できないこと、すること、しないことを設定しておくんですね?
Co:この設定とは、必要に応じていつでも修正変更されていく。
AC:へー。
Co:こうした限界設定がないと、実人生の「生」を享受できない。とても大事なものなんだ。
AC:ほー、なるほど。
Co:限界設定についてもう少し話そう。自身の探求がすすんで、過去の自分のような人々を助けたいと強く思い専門家になろうとする事例。
この心の動きはとても自然な流れで尊い動機なのだが、自己愛が傷ついたままだと反動が大きく振れ過ぎて、利己主義や愛他主義に翻弄されてしまうことがある。
例えば、人間理解の理論とは一人の人生がいくつあっても学びきれないほどの質と種類と量があると話した。限界設定がないと、すべての理論を習得することに邁進し、結果、自身の生活に支障を抱えるかもしれない。また、日本各地あるいは世界中のボランテイア活動に傾倒して自分を失ってしまうこともあるかもしれない。
AC:自分のできる範囲を決めるということですか?
Co:うん、自分を縛るということではなくて、領域や費やす時間を概ね設定しておくということだ。回復期において自己愛の肥大した理想や衝動に翻弄されないように。
AC:うーん、難しそう。
Co:自分の専門家になる冒険は、自分を知ることを通して、残りの人生を、うまくはできないかもしれないけど、すくなくとも自分らしくできること、やってみたいけどやめておこうと思うことことがわかってくるだろう。
AC:なるほど、限界設定が身につくんですね。
Co:私は開業カウンセラーで、人間理解について生涯学ぶ姿勢が必要だ。また、精神療法とはいつでもクライアントさんから教えてもらい、臨床、理論的基盤は常に仮説、実践、検証のくりかえしであるという姿勢を持つことがとても大切です。
AC:ほーーー。
Co:大事な枠組みとしては人間理解、トラウマ療法には特効薬や唯一の療法は存在しないし、自分の実践について常に謙虚な信念をもちながら、同時にネガティブな面を意識しておかなければいけない。
AC:う~ん、なんだか、ずっと、限界設定を抱えている?
Co:そう、常に二律背反、矛盾を抱えているという姿勢。クライアントさんの物語りを受容共感しながら、ひとりの人間としてこの世界の不完全さを嘆き、不条理を呪い、生物学的な怒りを受容する。そして、ときどき自分のために嗚咽する。
AC:ほーーーーー。
Co:限界設定をし、常に見直し、このジレンマと無力感をじっくり体験していくことは、カウンセラーだけではなくて、自分の専門家になる道のりとして、自身の人生に謙虚にむきあい、自分と他者に敬意と慈愛を持つことを可能にするだろう。
AC:はい。