***ACという生きる力 連載エッセイ!

Ⅱ章:ACの力とは? ac-alive-019

ACの力とはどのようなものなのか?
このことを臨床と研究対象としたのは、私が開業カウンセラーとしてずっとクライアントさんの変容プロセスを目撃してきた体験からだ。
ACの自覚のあるなしにかかわらず彼ら彼女らは、元家族との関係性が由来する、複雑な傷つき体験が語られた。傷つき体験とは、誰かに刃物で刺されたとか、毎晩なぐられたというような具体的な事例から、過干渉、無関心、主体の搾取、誤用などのような目に見えない体験が含まれる。それは言語をともなってすらいないこともしばしばある。
私は面接室の椅子にすわり、クライアントさんの言葉を聞き、身体のふるえを感じ、ただそこに座りつづけた。
その言説や文脈に、本棚ごとまるかじりしてきた人間理解のための臨床心理学理論などは粉々に吹き飛ばされた。
私は自身の傲慢さと無力さに苛まれ、愕然とする日々が続いた。

一方、時間の経過とともに彼ら彼女らは、自身の生き延びるために使ってきた関係性や防衛機構を特定しはじめると、まるで堰を切った濁流のようにあるいは、凍りついた記憶の断片が語られた。そして、残材とともに流れが澄んでくると、静かな怒りとともに失ったものを嘆いた。
当然だ、無理もない。私は、彼ら彼女らの怒りの表出に安堵する自分に気がついた。
彼ら彼女らは、傷つきながらも生きることへの純粋で強い力を持っていたと知るに至った。

数年を過ぎると、会話は自身の存在意味などの実存的な課題について推移し、これまでの人生、行動、現在の状況への後悔と恥、それらに伴う、強い悲しみと絶望感。影響を及ぼしただろう対象家族への怒りが語られた。
「いままでの人生で、私は何をしてきた?」
「私はいったい誰なんだ!」
「親に激しく怒りが湧く、どうしたらいい?」
「これまでの苦闘がトラウマ反応だったのはわかった、これからはなんとかするよ。でも、これからどうやって働けばいいのかわからない」
「私の居場所はどこにあるの?」
「生きていく意味がわからなくなった」

狂おしいばかりに愛情、関心を欲している自分を自覚しながら、どうしたら、他者と親密な関係性を持てるようになるかわからない絶望、今後の人生への先の見えない孤独が絞り出されるように語られる。
「友達はどやってつくればいいの?」
「自分の好きな洋服がわからないのです」
「ルージュはいつどんな気持ちの時にひくの?」
「どのように愛したらいいのかわからないのです」
「どのように愛されたらいいのかわからない」

AC:つらい言葉がつづくけど、なんだかあったかい涙が流れてきました。(涙)
Co:そう言ってくれてありがとう。カウンセラーもそのような気持ちになるんだ。生きる勇気をもらった気持ちになり、心の底が熱くなる。
AC:え? そうなんですか?
Co:面接室やワーク会場で身体が震えることもあるよ。
AC:カウンセラーって、ただ、黙っている人かと思ってました。
Co:クライアントさんの変化に関わる勇気が、人間であるカウンセラー自身にも変化を迫るのだと思う。そして、この2者関係の変化がトラウマとの関係性に変化をもたらすんだ。

私はカウンセリングという仕事を通して、私自身の中にも私なりの生きる力があるのだと知るに至った。そして、生きづらさや、悩みや苦しみなどは、治癒される対象であるだけではなく、ほんとうの自分を見つける流れにつながるのだと体験した。

Co:だからカウンセラーが動揺を隠したり、平気なふりしたり、反動で威張ったり、知識でごまかしているとカウンセリングはうまくいかないし、クライアントさんの変化をじゃまするし、カウンセラー自身も成長しない。
AC:へー。
Co:私は自分の課題に自覚を向け続けるクライアントさんの力によって、カウンセラーとしての研鑽過程を積んでこれたのだと断言できる。
AC:へーー。

2021.9

silviarita / Pixabay

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