***ACという生きる力 連載エッセイ!

Ⅵ章:ACという生きる力 ac-alive-070 率直に。

いま、ここで、私はあなたに率直にならなくてはいけない。
あの頃のわたしはあなたの苦しみの本質を知らなかった。
あなたはあらゆる力を使って子どもの時間を生き延びてきた。にもかかわらず、私はねぎらいもせず理解しようともせず、さらに叱咤するばかりだった。
あなた自身を受け入れずさらに苦しめることとなった。

あなたも私もうすうす気がついていた。
あなたは、生き馬の目を抜くような環境で何事もなかったのように器用に暮らせる人ではなく、野うさぎのように常に耳をたてて慎重に生きていかなくてはならなかった。
ただただ、風の音を聞き、鳥の声を聞き雪と戯れ、ストーブの炎を見つめながら傷を癒やす必要のある人だった。

あなたは私の期待に応えようとしてがんばった。
まともになろうとした。
あなたがまともになれれば、私は不安から逃れられるような気がしていたのだ。

いくつかの理不尽な大病を患った頃はほんとうにほんとうにたいへんだったと思う。
あなたは、幾度も死の淵をさまよった。
私は恐怖と将来の不安がいっぱいで見ていられなかった。
あなたは、そこでも力を発揮し生き延びた。
そして、さらにそれからがまたたいへんだった。
あなたは私の期待に応えるために、過去の自分のような人々を助けたいと奮闘した。
あなたを非難する人も現れた。
私はこの時も助けることができなかった。
あなたは過去の自分のような人々を助けたい一心で奮闘し、その長い間に深く傷ついた。
誰もが本質的な幸せを希望しているのではないと気がついた。
私はあなたがまた破綻すると知っていたが、
私は黙っていた。止められるものではないと思っていた。

あなたには、破綻の予感を感じるとさらに自らを奮い立たせ興奮し火の中に飛び込んで行くという傾向がある。
そういう自分とは誰なのか?何者なのかを探求せずにはいられなかったのだろう。
無理もない。あなたはこれまで自分の存在を知るために生きてきた。

あれこれの人間関係に恵まれてACのカウンセラーとなった。
私はこの道のりについては少々おどろいた。
あなたにはもともとそのような予感があったのだろうか?

以来、家族トラウマが由来する生きづらさを訴える、クライアントさんらとガチンコで治療構造をつづけているが、だいぶ心身ともに疲れが見える。

私はあなたに正直でいたことがないのだと思う。
あなたがまともになれば、私の不安が解消すると思っていた。
だから、あなたが、まともになろうとするよう背中を押し続けた。
結果的に、あなたの心身を苦しめ続けた。
もちろん、私にはそういうつもりはなかったのだが、。

私はあなたに話さなかったことがある。
あの時、あなたがあまりにも不憫であると感じた。私と同じような境遇で。
生まれて間もなく死別の体験をさせてしまったことを話していない。
そしてまもなく、あなたが、病いにおおわれたことでそれどころではなくなった。地元の医療機関では埓が明かず遠く離れた施設にあずけることになった。

私との間に触れてはいけない会話があったことは、あなたは気がついていたのだと思う。ただただ、それらをも乗り越えて生きていくことを祈っていたのだ。命があればと。

私はあなたに正直にならなくてはいけない。
あなたに謝りたい。
勝手ではあるが、あなたに許しを請いたい。

私はあなたがこれ以上苦しみを選ぶのを続けてほしくない。
コインロッカーから生まれたと言ってほしくない。

あなたはもう十分である。私に、何ができるのかを証明するような生き方をするのはもう十分である。
あなたは、何をやるとしても時間がかかるかもしれないが、自分なりにやり通す人間である。私には最初からわかっていた。

あなたは、愛されていた。
これをいま、あなたに伝えることができないのを悔やんでいる。
あなたは、そのままで十分なのだ。
あなたは、もう到達しているのだ。もうどこにも行かなくてもいいし、何か新しいアイディアを見つけなくてもいい。
私たちが残したものはあなたの心身にある。
どうか享受してほしい。
ありがとう。

2023

 

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